複素波形の意味

e^{j \omega n}e^{j \omega t}といった複素波形が,線形システムにおいてどのような意味を持つか少し書いておく.

デジタルの場合

線形システム{\cal T}の入出力f[n],g[n]とインパルス応答h[n]は,次のような離散畳み込みの式で表される.
\;\;\;\;g[n]={\cal T}\{ f[n] \} = \sum_{k=-\infty}^{\infty} h[k] f[n-k]
今,入力信号としてf[n]=e^{j \omega n}というサンプリングされた複素波形を考えると,その出力は上式より,
\;\;\;\;g[n]=\sum_{k=-\infty}^{\infty} h[k] e^{j \omega (n-k)}
となる.この式を変形していくと,
\;\;\;\;\begin{array}{rcl} g[n] &=& \sum_{k=-\infty}^{\infty} h[k] e^{j \omega (n-k)} \\ &=& e^{j \omega n} \sum_{k=-\infty}^{\infty} h[k] e^{-j \omega k} \end{array}
を得る.ここでe^{j \omega n}は入力信号f[n]に他ならず,\sumの部分はインパルス応答h[n]フーリエ変換そのものとなっている.

以上をまとめると,
\;\;\;\;{\cal T}\{ e^{j \omega n} \}=H(e^{j\omega}) e^{j \omega n}
という関係が得られる.

アナログの場合

線形システム{\cal L}の入出力f(t),g(t)とインパルス応答h(t)は,次のような畳み込み積分の式で表される.
\;\;\;\;g(t)={\cal L}\{ f(t) \} = \int_{-\infty}^{\infty} h(\tau) f(t-\tau) {\rm d}\tau
今,入力信号としてf(t)=e^{j \omega t}という複素波形を考えると,その出力は上式より,
\;\;\;\;g(t)=\int_{-\infty}^{\infty} h(\tau) e^{j \omega (t-\tau)} {\rm d}\tau
となる.この式を変形していくと,
\;\;\;\;\begin{array}{rcl} g(t) &=& \int_{-\infty}^{\infty} h(\tau) e^{j \omega (t-\tau)} {\rm d}\tau \\ &=& e^{j \omega t} \int_{-\infty}^{\infty} h(\tau) e^{-j \omega \tau} {\rm d}\tau \end{array}
を得る.ここでe^{j \omega t}は入力信号f(t)に他ならず,積分はインパルス応答h(t)フーリエ変換そのものとなっている.

以上をまとめると,
\;\;\;\;{\cal L}\{ e^{j \omega t} \}=H(\omega) e^{j \omega t}
という関係が得られる.

複素波形の意味

デジタルでもアナログでも,複素波形を線形システムに入力すると出力にも必ず同じ複素波形が出てくる.そして,その係数がシステムの伝達関数になっているのである.このような特徴は不動点定理によるものらしく(詳しくは知らない),フーリエ変換という線形写像における不動点が複素波形であるということなのだそうだ.


数学的な議論はさておき,非常に重要な性質であることは間違いない.特にアナログの式において,オイラーの公式
\;\;\;\;\cos(\omega t) = \frac{1}{2} \left( e^{j \omega t} + e^{-j \omega t} \right)
を用いれば,システムの線形性より
\;\;\;\;{\cal L}\{ \cos(\omega t)\} = \frac{1}{2} H(\omega) e^{j \omega t} + \frac{1}{2} H(-\omega) e^{-j \omega t}
となる.このシステムが因果的であれば,伝達関数にはH(-\omega)=\overline{H(\omega)}という関係が成り立ち,上式は次のように書き換えられる.
\;\;\;\;{\cal L}\{ \cos(\omega t)\} = \Re\{H(\omega) e^{j \omega t}\}


この式はj \omega解析で用いられる基本的な式である.簡単に言うと,回路の定常応答を調べるには,機械的に回路の伝達関数(複素インピーダンス)を求めて上式に代入するだけでよいということを意味している.この手法のおかげで,インパルス応答や微分方程式を全く意識することなく(定常)応答が求められるのだから,電気・電子系の学生はもっと有り難がらねばならないと思う.